その恋、記憶にございませんっ!
「大丈夫だ。
 悪いようにはしない」

 ま、ますます悪役じみて来ましたが……。

「ちょっとキスとかしてみたいだけだ」

 いやこれ、ちょっとキスとかしてみたいって、体勢じゃないですよねっ?

 今にも上に乗ってきそうな蘇芳に、助けてっ、と目で訴えると、蘇芳は何故か照れたように視線をそらす。

 反応おかしいですよっ!? と思っていると、蘇芳は、

「この間、宮本が来たとき、ほんとは口にキスしたかったんだ。

 ちょっと恥ずかしかったのと。

 お前とするのは初めてなのに、瞬間的にちょっとするだけじゃもったいない気がして、頬にしかしなかったんだが。

 その分、今日はさせてくれ」
と言ってきた。

 あのっ!

 その照れたような口調や顔つきと、やってることが一致してませんしっ。

 最後の、させてくれ、は完全に強行してやる気で、私の意見は求めてませんよねっ?

 そう唯が心の中で叫んだとき、蘇芳がそっと口を塞ぐ手を緩めてくれた。

 いや、そのままではキス出来なかったからかもしれないが――。
< 148 / 266 >

この作品をシェア

pagetop