その恋、記憶にございませんっ!





「樹(いつき)」
 ちょうど樹の上司に回す書類があったので、唯は、苦手なパソコンのキーを叩いている樹の後ろに立った。

 なんだ? と樹が振り返る。

「いつぞや、同期会、企画してくれてありがとう」
と言うと、樹はいつぞやっていつだっけ? という顔をしたあとで、笑い、

「どうした、唯。
 また企画して欲しいのか?」
と言ってくる。

「いや、もういいんだけど」

 今度こそ、本物の白い服のおじさんやカエルを連れて帰ったら嫌だし、と思っていると、
「そうか。
 さては、みんなとじゃなくて、俺と二人で呑みに行きたいんだな」
と都合のいい解釈を始める。

「お前があの婚約者と戦ってでもお前を手に入れて欲しいと言うのなら、戦ってやらないこともないぞ」
と笑って言ってくるが、

「いや……一瞬で木っ端微塵にされる樹が見えるからいいよ」
と言った。
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