その恋、記憶にございませんっ!
仕事終わりに唯を迎えに行く約束をしていた蘇芳だが、気になることがあり、一度、屋敷に戻ってみた。
宮本の動向だ。
すると、宮本は真面目に家で執事の仕事をこなしていた。
よしよし、と思いながら、外に出たのだが、やはり気になる。
車に乗りかけ、戻ると、ちょうど車の掃除をしていた本田が居たので、呼びかけた。
「本田」
「あ、蘇芳様」
と毛ばたきを手に、本田がこちらを見る。
「お前、宮本が俺の後を追って出ようとしたら、今度は一生の問題で相談事があると言って、足止めしろ」
「一生の問題ってなんですか?」
と訊い返してくる本田の顔を見ながら、……そういえば、こいつの一生の問題ってなんだろうな、と蘇芳は思った。
次はどの馬に賭けるかとか?
宝くじは何処の売り場で買うかとか?
「まあ、なんでもいいから、ともかく、足止めしろ」
そう言いながら、蘇芳はこの間より少し上乗せして、三千円、本田に渡した。