その恋、記憶にございませんっ!
 




 蘇芳が帰りに迎えに来てくれるというので、夕方、唯はロビーで待っていた。

 すると、慎吾が現れる。

「唯、誰か待ってるのか?」
と言ってくるので、はい、ちょっと、と答えた。

 沈黙が訪れる。

 この間の話、やっぱり、ちょっと信じられないな、と唯は思っていた。

 慎吾さんが私と結婚したいだなんて。

 そう思いながらも、ちょっと気まずい。

 そんな空気を感じ取ったかのように、慎吾は言ってきた。

「唯。
 急にあんなこと言って悪かった。

 でも、すぐには考えられないかもしれないけど。

 もし――」

 そのとき、誰かが慎吾の肩をつかんだ。

 翔太だった。

 まだ居たんですか……と唯は思う。

 この人、ボストンに帰らなくていいのだろうか、と思っている唯の前で、翔太は慎吾に向かい、言っていた。

「慎吾さん、後から割り込み、おかしいんじゃないですか?」

 自分と唯との結婚話に割り込んできたことに、文句をつけているようだった。
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