その恋、記憶にございませんっ!
「確かに、今まではっきり言わなかった僕が悪かったよ。

 でも、今度はちゃんと言わせてもらう。

 僕は唯が好きだ。

 諦めるつもりはない」

 だが、そう言ったときの慎吾の目は翔太ではなく、玄関の方を見ていた。

 そこに居たのは蘇芳だった。

 慎吾さんの方が落ち着いてる分、怖いな、と思ったのだが、蘇芳は、諦めないという慎吾の言葉を聞きながらも、ほう、と笑う。

「慎吾。
 俺の前に立ちはだかろうというのか。

 どう足掻いても、唯はもう俺のものだが」

 その口調に、笑顔に、明らかに人を見下しているようなその態度に。

 貴方の方が悪人みたいですよ……と唯は思った。

 付き合い始めの愛情を持ってしても、かばえない。

 いや、付き合っているつもりもないし。

 愛してるなんて思っているつもりもないのだが。

 ええ、ほんとに。
< 237 / 266 >

この作品をシェア

pagetop