その恋、記憶にございませんっ!
「お前の好きなとこ?」

 そうだなあ、と蘇芳は笑う。

「素晴らしく美しいとかいうわけでもないし」

 ないんだっ?

 付き合い始めの最も可愛いはずの時期でも、そこまでではないらしい。

 っていうか、笑いながら、シビアなことを言わないでください……と思っていると、蘇芳は、

「なんとなく、だな。
 なんとなく」
と言い出す。

「なんとなく可愛いんだ。
 なんとなく一緒に居たら落ち着いて。

 なんとなく面白い」

 ……なんとなくなんだ、と思っていると、
「こうして考えてみると、特に理由はないな」
と笑う。

 だから、そこ、笑うとこなんですか、と思っていると、
「理由はないんだ。
 お前と居ると、ただ幸せなんだ」
と蘇芳は言ってきた。

「これと言った理由もなく、好きっていうのが、一番続きそうな気がするんだが」

 そういえば、お前、本当に最後まで握ってたな、と蘇芳は笑う。

 あのテーブルの脚のことらしい。

 今も此処にデン、と座っているが――。
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