その恋、記憶にございませんっ!
 




 どうしたことだ。
 唯が俺を見つめている。

 こんなことは初めてだ。

 ついに唯が恋に落ちたとか?

 いや……いやいやいや、とテレビに見入っているフリをしながら、蘇芳は固まっていた。

 自信過剰なまでにガンガン押していっていたが、いい大人だ。

 さすがに、唯がそんなに自分のことを好きではないのは知っていた。

 だが、本気で突き放してはこないので、まるきり嫌いということもないのだろうと思ってはいたのだが。

 どうしたことだ。

 唯が俺のことを好きになっているような気がする!
とらしくもなく、蘇芳は、うろたえていた。

 顔には恐らく出ていなかっただろうが。

 唯はそのうち、テレビを見始めた。

 少しほっとしていたが、やがて、すすすすすっ、と側に寄ってくる。

 ちょっと迷ったあとで、勢いをつけるように、
「えい」
と小さな掛け声をかけ、自分の肩にその頭をよせてきた。

 ……一体、なにがっ!?

 なにが起こっているんだっ?

 俺は騙されているのかっ。
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