その恋、記憶にございませんっ!
私、帰ります、と宮本のような口調で言って、蘇芳は去っていった。
……面白い人だ。
一気に近づいてきたかと思ったら、勝手に遠ざかる。
最初の頃言ってたみたいに、敢えて距離を取って、寂しがらせてみようという罠なのだろうか。
いや、あれは違うな、と完全に動揺した様子の蘇芳を思い出しながら唯は思っていた。
でもちょうどいい。
ひとりになれたから。
今夜はゆっくり考えてみたい――。
布団に入った唯は、台所の小さな窓から月を見ながら、ぼんやりしていた。