その恋、記憶にございませんっ!
 




「帰っちゃってよかったんですかー?

 此処でもう一押ししなくて、よかったんですかー?」

 今日はもう用はないだろうと思っていた本田を呼び出してしまったので、蘇芳は本田に多少の小遣いを渡していた。

 そのせいでもないだろうが、帰りの車の中で、本田は珍しく、いろいろと忠告してくれる。

 が――。

「だって、唯が俺のことを本当に好きかもしれないんだ」
と窓の外を見ながら、蘇芳は呟く。

 本田からのコメントはない。

「そんなのどうしていいかわからないじゃないか」
と言うと、本田は口を開いた。

「……蘇芳様。
 二、三、言いたいことがあるのですが、よろしいですか?」

 よろしいですかもなにも言う気だろ、お前、と思って見ると、

「そもそも、唯様が好きでない、と思っているのに、あそこまで強く押してったのはどうかと思うんですが。

 それから、今、唯様が蘇芳様をお好きだというのなら、なにも迷うことないじゃないですか」

 さっさとお二人で、先程の婚姻届を出しに行かれては? と言われてしまう。
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