その恋、記憶にございませんっ!

「いいだろうか?」
と少し身を乗り出し、本田に訊くと、

「いや、それ、唯様に訊いてください」
とめんどくさそうに言われる。

「なんで急にビクビクし始めるんです」

「いや、唯が俺のことをそんなに好きじゃないかもと思ってるうちは、当たって砕けろと思ってたんだが。

 今は砕けたくない」

 助手席に手をかけ、切実にそう訴える。

「なあ、唯は俺のどんなところが好きなんだと思う?」

「さあ、そういうめんどくさいところですかねえ?」
と言う投げやりな返事が返ってきたが、聞いてはいなかった。

「直接、唯の気持ちを確かめた方がいいだろうか。

 でも、唯は恥ずかしがり屋だからな。

 今日だって……」

 あー、早く着かないかなあ、と本田が運転しながら、もらすのも耳に入らず、家に着くまで、後ろでずっとぐだぐだ言っていた。






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