その恋、記憶にございませんっ!
「前田様っ!」
と真横から完極まった声がして振り向くと、宮本が立っていた。

 ……宮本さん、なんで、此処に居るんですか、と思っていると、父は自分と宮本に気づき、
「おお、唯。
 そして、三郎丸か。

 久しぶりだの。
 息災であったか?」
と並んで立つ二人の腕をそれぞれ、ぽんぽん、と左右の手で叩く。

「殿……っ」
と宮本が声をつまらせる。

「幼き折に、チラとお会いしただけですのに。
 覚えていてくださるなんてっ」

 一生付いていきますっ、という感じに語るが、いやいや、貴方のご主人は蘇芳さんのお父様では、と思っていた。

「宮本、唯を頼むぞ」
と言われた宮本は、感激し、

「はいっ。
 唯様の害になるようなものは、例え、蘇芳様でも排除致しますっ」
と答えていた。

 排除しないでください……。

 勝家は会長たちの許に行き、
「このたびは唯が我儘(わがまま)を言って、ご迷惑をおかけしたようで」
と頭を下げる。
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