その恋、記憶にございませんっ!
「そもそもこの婚姻届の用紙は何処から出てきたんですか?」

「もらいに行ったんじゃないか、役所まで」

「役所まで……?」

「お前が手をつないで前を歩きながら、ずうっと誰かとこうして一緒に歩いていきたいとか居たいとか言うから。

 結婚したら、ずっと一緒に居られるって話をしたら、じゃあ、結婚しようと言って、そのまま二人で、役所の夜間受付に行った」

 ……その時点では、フライドチキンのおじさんと歩いているつもりだったはずなのに。

 私はあの白い服の人と結婚しようとしていたのだろうか?

 まあ、人形だと思っていたから、軽くそんな話をしてしまったのかもしれないが。

 酔っ払いの思考、怖すぎる……と思っていた。

「お前はその場で出そうとしたんだが、印鑑がなくて。
 拇印(ぼいん)でもよかったと思うんだが。

 戸籍謄本(とうほん)も本籍地が二人とも此処なんで、取れなくもなかったんだが。

 まあ、とりあえず、連れて帰ったんだ」

 す、蘇芳さんの方が冷静だとかっ、と唯はその場に崩れ落ちそうになる。
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