その恋、記憶にございませんっ!
「こいつは危ないなと思って、此処までついて帰った」

「……す、すみませんでした」
と唯は頭を下げる。

「いや、だが俺は此処で、お前と手をつないで座っていて、猛烈に後悔した。

 婚姻届をどさくさ紛れに出しておかなかったことを。

 目が覚めたら、お前、正気に返るだろう?

 だから、お前が起きたとき、物凄い勢いでまくし立てて、なんとか丸め込もうとしたんだ」

 あのー、わけのわからないことを言っては、人を(けむ)に巻くという噂はやっぱり噂じゃないですよねー、と唯は思っていた。

「でも、蘇芳さんは、それで結婚してしまってもよかったんですか?」
と訊くと、

「言ったろう。
 俺はお前と手をつないで道を歩いたとき、明るい未来が見えた気がしたんだ」

 いや……気のせいだと思いますけどね、と赤くなりながら、でも、きっと私もそうだった、と思う。
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