その恋、記憶にございませんっ!
 



 なんかすごい庭園なんですけど……。

 蘇芳(すおう)に連れられ、屋敷の門をくぐった唯は、隅々まで手入れのほどこされた洋風の庭を眺め歩く。

 勝手な妄想なのだが。

 此処には、ヨーゼフという名の庭師が居て、いつも脚立に乗って、木を刈っていて。

 子どもの蘇芳さんが叱られて泣いていたら、小屋に連れていって、ホットミルクと焼きたてのクッキーを振舞ってくれる――

 そんな感じの庭だ。

 ……いや、待てよ。

 ヨーゼフって、どっちかって言えば、犬かな? と思っている間に、屋敷の中に入っていた。

 明るい庭から邸宅の広い玄関に入ると、ひんやりとした空気が漂っていた。

 もちろん、昔の英国貴族とかではないので、たくさんの使用人が出迎えてくれたりはしないが。

 蘇芳とはまた(おもむき)の違う綺麗な顔の男が燕尾服を着て立っていた。

 男にしては、長い黒髪を後ろでひとつにまとめているが、それがまったく違和感がない。

「おかえりなさいませ、蘇芳様」

「宮本だ」
と蘇芳が紹介してくれる。

 これが五歳上の執事か、と思っていると、その宮本が、
「……こちらの女性は?」
と左右対称すぎてちょっと怖い笑顔で訊いてくる。
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