その恋、記憶にございませんっ!
 




「あのー、ひとつ伺ってもよろしいでしょうか」

 蘇芳の部屋は、決して派手ではないが、高価そうな家具に彩られていた。

 グリーンのアンティークなアームチェアに座って紅茶をいただきながら、唯は訊いてみた。

「何故、私は此処に連れてこられているのですか?」

 部屋に入った蘇芳は特に話すでもなく、ただ一緒にお茶を飲んでいるだけだったからだ。

「俺の財力を見せつけるためだ」

 うーん。
 わかりやすいー。

「俺は充分お前をお前の婚約者から買い取れる、というところを見せておこうと思ってな」

 そうですか……。

 そうですか……。

「えーと。
 では、そろそろ失礼します」
と唯が立ち上がると、

「帰るのか」
と蘇芳は訊いてくる。

 はい。
 もう充分見せつけられましたから、と思っていると、意外にも蘇芳は引き止めることもなく、

「送ろう」
と言ってきた。
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