その恋、記憶にございませんっ!
 その手をまた避けると、
「……私は唯様ほど、抜けてませんよ。
 見せなさいっ」
と五つしか上ではないうえに幼なじみのこの男は上から叱りつけるように言ってくる。

「嫌だ」

 蘇芳様っ、と叱ってくる宮本の整った顔を間近に見ながら、
「お前、何故、唯に婚約者が居ると知っている」
と問うと、

「私、盗み聞きをしておりましたので」
としゃあしゃあと言う。

「旦那様に、蘇芳様の行動は逐一チェックして伝えろと言われております」
と悪びれた様子もない。

「お前な……」

「蘇芳様、唯様と二人きりになられて、緊張して話せなかったようですね」

「……口を開かなくても通じると思ったんだ。
 以心伝心だ」

「どうせ、家に来る前も、偉そうに一方的にしゃべるくらいのことしか出来なかったんでしょう」

 そう見透かすように言ってくる。

「そんな負け惜しみをおっしゃるのなら、なにも協力しませんよ。
 それでなくとも、朝帰りなうえに、困ったお嬢様を連れてらっしゃって」

「困った?」
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