愛され任務発令中!~強引副社長と溺甘オフィス~
「それではまた近いうちに」

囁くように言うと、タオルを手に駆け寄ってきたボーイからタオルを受け取り、足早に去っていく。


びっくりだ、まさかあんな漫画の世界のことをしてしまう人がいて、私がされてしまうだなんて。

手の甲にキスだなんて……! 普通の男性はそんなこと絶対しないはず!

緒方社長の後ろ姿を見つめたまま、右手を左手でギュッと握りしめてしまう。


「言っておくが、緒方社長は既婚者だ」

「へ? ……わっ!?」

いつの間に隣に来ていた副社長は、なぜか不機嫌そうに声に棘を生やしている。

「ただのリップサービスだ。……真に受けるなよ」

「もっ、もちろんです!」


ちょっと副社長ってば失礼じゃない? 手の甲にキスをされたからって、私がコロッと緒方社長に落ちてしまうとでも、思っているのだろうか。


悪いけどそう簡単に人を好きになることなんてできないから。……あんなことがあった手前、人を好きになることさえ臆病になってしまうよ。

昔の古傷に胸がズキッと痛んでしまい、奥歯をギュッと噛みしめる。
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