ずるい男 〜駆け引きは甘い罠〜

なんだかんだと峯岸のペースに乗せられて、ここまで来てしまった。


一緒に暮らす?


つい数時間前までの会う事もないだろうと思っていた男と、ここで生活して行く不安と期待で気持ちが上昇したり下降したりと大忙しの美姫は、部屋に戻ってきた峯岸に気がつかないでいた。


背後からそっと抱きしめてきた腕の中に捕まり、ガラス越しに視線が重なる。


「…美姫、俺たちの始まりに愛なんてなかったってさっきは言ってたけど、出会った瞬間、愛は始まっていたと思う。高校生の美姫が大人になって自分以外の男の側にいる姿に、苛立ったよ。美姫の側に立つ男は、どうして俺じゃないのかって…そう思う時点で、もう始まっていたと思わないか⁈だから、愛なんてないって言わないでくれ…この子を授かったのも愛し合ったからだろう⁈」


少し膨らんでいるお腹を撫でる男の手に手を重ねた。


「浜田さんの同期として紹介された時、昔の淡い恋心にときめいてるだけだと思いたかったのに、私の心を掻き乱し、惑わせるあなたにどんどん惹かれていく自分を止められなかった」


美姫の頭部に触れる唇。


「あぁ…俺も」


振り返る美姫に苦笑する男は、美姫の顎に手を添えた。
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