ずるい男 〜駆け引きは甘い罠〜
好きだとか愛してるって言葉はくれない代わりに、こうして狡く愛を囁く。
だから、美姫も狡く言葉を返す。
「ううん…私も」
狡い返事に、不満気に目を細め片眉が上がる男の表情も見慣れたはずなのに、この表情が好きでたまらない。
「早く、俺には美姫だけだって信じてもらえないと…」
「んっ?信じてもらえないと、なに?」
「なんでもねーよ」
濡れている髪をかきあげ、面倒くさそうに立ち上がった。
「ほら、逆上せるぞ。段差気をつけろよ…ゆっくり歩けよ」
美姫を抱き上げ、腕を掴んだまま浴槽から出るように促し、濡れている床の上も手を離さない蒼斗。
そんな優しさが、なんだか嬉しいのだ。
お風呂あがりに飲むビールと一緒にホットミルクを用意してくれる蒼斗。
そして、床に胡座をかいた蒼斗の膝の上に足を伸ばして座らされ、濡れた髪を乾かしてくれる。
美姫のマグカップが空になる頃には、髪も乾き温かさに眠くなると蒼斗のビールもなくなり、そのまま一緒にベッドに連行され抱きしめられて寝る毎日が幸せだと思う。
短期間でもう、この幸せを手放せないと思ってしまうほど、蒼斗のずるさに骨抜きにされている。