ずるい男 〜駆け引きは甘い罠〜
それが嫌じゃないと思うのは、愛してるからで、この腕の中が心地よく、安心できる場所になりつつあり、あっと言う間に深い眠りに落ちていく。
翌日、最後の仕事の日だからかいつもより早く目が覚めたのに、隣には蒼斗はいなかった。
寝室からリビングに出ると、既に蒼斗が着替えてコーヒーを飲んでいる姿を見て慌てて小走りにキッチンに向かう。
「こら、走るな」
「だって…朝ご飯の支度が…してある」
ダイニングテーブルの上に用意されている朝食に蒼斗を見る。
「ほら、ゆっくりと座って」
椅子に座らされた美姫。
蒼斗は、美姫の為に温めたスープをテーブルの上出し向かい合わせで座った。
「仕事、今日で最後だろ」
「うん…だから、蒼斗が朝から用意してくれたの?」
「たまたまだ」
たまたまじゃないのに、ぶっきらぼうに視線を逸らす。
照れ臭さを隠すようなこうした姿も、一緒にいるようになって見つけた。
これからも、いろんな蒼斗を知っていくのだろう…
そう思うと、嬉しくて笑みをこぼす美姫を見た男は不機嫌そうに舌打ちする。
それさえも、好きだと思う。
「ありがとう」