ずるい男 〜駆け引きは甘い罠〜

『美姫、今、大丈夫?』


「‥はい、大丈夫です」


チラッと峯岸を見て少しだけ距離をとるように歩いた。


『まだ、仕事中なんだけど、美姫の声が聞きたくて電話をかけてしまったよ』


彼氏からの嬉しいはずの電話なのに、気持ちがソワソワしている。


「なんだか疲れた声してますね」


『うん、とっても疲れてる。でも、美姫の声が聞けて少し元気が出てきた気がするよ』


「本当ですか?無理しないでくださいね」


『今の大きな仕事が終わったら、美姫を一晩中抱きしめて寝たいよ』


「……」


少し先を歩いていた峯岸が、突然、美姫の手を取り繋ぎだした。


あまりの突然の事に、峯岸を見つめる。


平然として歩いている峯岸とは違い、美姫は戸惑い手を振り解く余裕もなかった。


『もしもし?美姫…』


「…早く、浜田さんに会いたいです」


『俺も』


電話口の浜田の声に我に返り、何かをごまかすように浜田に返事を返していた。


『騒がしいけど、美姫は今、何してるの?』


大通りに出た交差点で、車が行き交う騒音が聞こえたらしい。


「石塚さんと新しくオープンしたカフェに行って来た帰りなんです」
< 16 / 119 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop