ずるい男 〜駆け引きは甘い罠〜
『美姫、今、大丈夫?』
「‥はい、大丈夫です」
チラッと峯岸を見て少しだけ距離をとるように歩いた。
『まだ、仕事中なんだけど、美姫の声が聞きたくて電話をかけてしまったよ』
彼氏からの嬉しいはずの電話なのに、気持ちがソワソワしている。
「なんだか疲れた声してますね」
『うん、とっても疲れてる。でも、美姫の声が聞けて少し元気が出てきた気がするよ』
「本当ですか?無理しないでくださいね」
『今の大きな仕事が終わったら、美姫を一晩中抱きしめて寝たいよ』
「……」
少し先を歩いていた峯岸が、突然、美姫の手を取り繋ぎだした。
あまりの突然の事に、峯岸を見つめる。
平然として歩いている峯岸とは違い、美姫は戸惑い手を振り解く余裕もなかった。
『もしもし?美姫…』
「…早く、浜田さんに会いたいです」
『俺も』
電話口の浜田の声に我に返り、何かをごまかすように浜田に返事を返していた。
『騒がしいけど、美姫は今、何してるの?』
大通りに出た交差点で、車が行き交う騒音が聞こえたらしい。
「石塚さんと新しくオープンしたカフェに行って来た帰りなんです」