ずるい男 〜駆け引きは甘い罠〜
何度も触れた事のある唇が、満足気に微笑んだ。
「俺とのキス好きなんだろう⁈」
ずるい…
言葉をくれないくせに、惑わすそぶりが憎らしい。
ずるいのは私も同じだ。
彼氏への裏切りだとわかっているのに、彼を拒絶出来ないのだから…
大通りに出るまでの数分、どちらからともなく絡めた指。
思わず緩んだ頬が熱い。
彼は、どんな表情をしているのだろう?
私のように、ドキドキしていてくれているだろうか?
私と同じ気持ちだろうか?
いや、それはないだろう。
彼は、背徳感を楽しむ男なのだから…
きっと、浜田さんより彼を選んだ瞬間、この不確かで危ういスリリングな関係は終わる。
だから、知られてはいけない。
浜田さんにも
彼にも
サイテーだと自分に嫌悪しても、彼の側にいる他の選択肢がみつからないのだからと言い訳して、私はこのずるい男に堕ちていく。
「峯岸さん…もう一度キスして」
フッと悪い笑みこぼした男は、自販機の影に私達を隠し私の唇をなぞった。
「悪い女だな」
「自分こそ…」
抗議しかけた言葉を塞ぐずるい男の背を今だけと抱きしめた。