ずるい男 〜駆け引きは甘い罠〜
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何が足りない?
目の前の女は攻落寸前なのに、まだ頷かない。
浜田の彼女として美姫が現れた時、峯岸は電車でいつも一緒だった高校生の女だと直ぐにわかった。
あの頃から化粧をしていなくても大人びた顔つきをしていて、制服を着ていなければ高校生だと思わずに口説いていただろう…
すぐそこで、大人びた顔に化粧をした美姫が微笑んでいる。
だが、それは峯岸に向けたものじゃない。
どうしてだ?
先に出会っていたのは俺の方なのに、同期の女として今、目の前にいる。
美姫の乙女な表情、仕草が浜田に向くのが面白くないと思ってしまう。
それは高校生だった頃の美姫が、峯岸に気があったとわかっていたから、尚更だった。
毎日同じ車両に乗ってきて、峯岸を見つめていた。
その事がバレていないと思っている美姫は、同じ学校の友人達に、毎回、声をかけるようにそそのかされても、頑なに首を横に振っていた。
見ているだけでいい…と。
今時の女子高生らしからぬいじらしさに、なんとも言えない至福感を感じながら、相手は高校生…恋愛対象じゃないが、いつまでも自分だけを見ていてほしいと思う、自分勝手な峯岸がいた。