ずるい男 〜駆け引きは甘い罠〜
「…揶揄わないで」
真っ赤になりながら睨んでくる美姫。
その表情が、煽る行為だと思っていないらしい。
「揶揄ってないさ。このまま連れて帰りたい」
美姫の表情の変化を見逃さないように、彼女の頬に手を添え至近距離で見つめ合う。
「……」
なん度も瞬きをして悩んだ末に美姫は、峯岸の胸を押し立ち上がった。
「行かなくっちゃ…浜田さんが待ってる」
「……そうだった」
歯切れの悪い口調の美姫と距離をとり、峯岸はつれない態度で先に歩き出した。
峯岸の冷たい声と態度に美姫は焦って追いかけると、男のスーツの裾を指で掴んで歩いた。
無意識の行動なのだろう…
それがまた、堪らなくかわいいと思う峯岸は、更に冷たい態度を取っていた。
「離せよ」
ほんの数メートルの距離、沈黙が続く。
「怒ってる?」
「べつに…お前は浜田の女なんだから、それでいいんじゃないのか⁈」
「…峯岸さんのバカ、バカ…」
斜め後ろで、今にも泣きそうな声で男を罵る美姫に、峯岸は笑みを堪えた。
今まで女の泣き声で心を動かされた事のない峯岸だが、美姫は別だったようだ。