ずるい男 〜駆け引きは甘い罠〜
「バカでいい…大通りに出るぞ」
大通りに出る寸前で、急に立ち止まる女に裾を引っ張られた峯岸も立ち止まり、振り返ると無言で瞬きをした美姫の目から大粒の涙が流れていた。
自分のせいで泣いている美姫…
「泣くな…」
美姫の心をぐちゃぐちゃに惑わせている自覚はあるだけに、涙を見ても峯岸は冷静だった。
スーツの内ポケットから名刺を出し、胸にさしていた万年筆で空きスペースにプライベート用の電話番号を書き美姫の手に握らせた。
「その気になったら連絡してこい」
*
ジッと見つめる美姫の涙を指先で拭い口角を上げ微笑んだ後、峯岸は大通りにいる浜田を探していた。
その姿を見ながら、涙がまた流れていく。
嬉しいはずなのに、困惑する。
峯岸は、ずるい男だと罵る。
本当にずるい男…
再会し、浜田という彼氏のおかげで過去の初恋だと思い込もうとしたのに、ズカズカと美姫の心に遠慮なく踏み込んできて、かき乱し、惑わせ、そして…最後は突き放し、甘い誘惑だけを残し置き去りにした。
誘惑に乗るのも乗らないのも、美姫次第だという事なのだろう…
峯岸と話す浜田を見つけ、美姫は名刺を鞄の奥底にしまった。