ずるい男 〜駆け引きは甘い罠〜
向かい合わせに座ると、お互いに頭を下げ挨拶をする。
どこかで…
この顔立ちに記憶がある。
脳裏によぎる遠い記憶…
毎朝乗る電車に乗ると、必ず同じ車両の定位置に立つ若い男性
喋った事もない
声も聞いた事もない
キリッとした目に一重まぶた、スッと通った鼻筋、薄い唇が冷たい印象を与える男性が、高校生の美姫にはとても大人に見えて憧れていた。
彼を見つける度、ドキドキしながら彼の顔を盗み見て満足していた昔の自分を思い出した。
その時より歳を重ねた男性は、更に魅力的になっていて見惚れるほど素敵になっていた。
「初めまして、峯岸です。2人の邪魔をして申し訳ないね」
「…いいえ…邪魔なんて…」
それだけ言うのが精一杯の美姫を援護するように、浜田は峯岸に話しかけた。
「そうだぞ…お前は秘書室勤務で同期会にも参加しないから、こんな時じゃないとゆっくり話しもできないじゃないか」
「話しなら電話でも出来るだろう⁈せっかくの週末、彼女とゆっくりしろよ。俺は今日、退散するよ」
「…悪いな…また今度ゆっくり飲もう」
そう言って、峯岸が立ち伝票を掴んだ。