ずるい男 〜駆け引きは甘い罠〜
「…そうね。出ましょう」
周りの視線に冷静になった早希と一緒に更衣室を出た後、会社近くのカフェに寄った。
ホットコーヒーを頼み、運ばれて来るまで美姫はどこまで話をしていいのかと考えを巡らせている間、目の前に座る早希は、美姫が話を始めるのを待っている様子だった。
テーブルに置かれたコーヒーを一口飲んだ美姫は、簡潔に報告のつもりで早希に伝えようと喋りだす。
「私たち、別れたんです」
「どうして?」
美姫の一声に、早希は嬉々する喜びを隠そうと頬を引き締めている。
「浜田さんより好きな人ができたんです。だから、私から別れ話をしました」
「浜田さんが…可哀想よ。美姫しか見ていなかったのに、裏切るなんて…あんなにやつれた浜田さんを見て何も感じないの?よく平気な顔でいられるわよね」
更衣室での早希の態度といい、浜田を思って美姫を罵る早希の様子から、間違いないと確信した美姫。
「傷つけたのは申し訳ないと思ってます。でも、私じゃ浜田さんを幸せにしてあげれない。優しくて素敵な人だから、こんな私と一緒にいて他の女性と巡り合うチャンスを逃してほしくない。今は無理でも、いつかふさわしい人と出会ってほしいと思ってます」