ずるい男 〜駆け引きは甘い罠〜
知られた真実
美姫の体調は、悪くなる一方だった。
顔色が悪くなり食欲もない。
匂いに敏感になりだし、特に香水の香りに吐気が起こる。
受付にいれば、沢山の関係者と対応しなければならない。
その度に、吐気と戦い、青白い顔で笑みを浮かべる。
「美姫、大丈夫?」
「大丈夫…です」
しばらくの間の我慢だからと、無理をしていた。
アパートに帰れば何もする気力も出ず、ベッドの上に直行する毎日。
休みの日は、ベッドから起き上がれずに過ごすほどだった。
原因は、わかっている…
来るはずのものが、来ないのだ。
鞄の中にある、妊娠検査薬。
確かめるべきだと思いながら脳裏をよぎるいくつもの不安に、まだ確かめる勇気がない。
もし、妊娠していたら?
この子を産む選択をする。
たった一夜で授かった命は、愛しい彼との子どもだ。
彼の子を産みたいからと産んで、1人で育てていけるのだろうかという不安。
片親という事で、苦労をかけるかもしれないという不安。
子どもに父親のことを聞かれたら何て答えるべきかとという不安。
万が一、自分に何かあったら1人ぼっちにさせてしまうという不安。