ずるい男 〜駆け引きは甘い罠〜
「誘ったのは俺だ。置いていけよ」
浜田の声に峯岸は、美姫をチラッと見た。
「イヤ、どうせ1人で飲むつもりだったんだ。気にするな」
「そうか?今度は俺が奢るよ」
「惚気ならごめんだ」
意味深に美姫を見た後、『またな』と手を振り伝票を持って帰って行った。
峯岸がいなくなり、自分の体に力が入っていた事に気がつく。
強張る肩、握っていた手のひらに汗をじわっと汗をかいていた。
「…よかったんですか?」
「うん、気を利かせてくれたんだろう。近いうちに返すさ」
高校を卒業し、もう会えないだろうと諦めて忘れていたのに、彼氏の同期として再会した運命に心の奥底でなんとも言えない複雑な心境でいた。
楽しみにしていた浜田とのデートのはずなのに、峯岸の表情が脳裏に残り忘れられない。
「美姫…疲れてる?」
「えっ、どうしてですか?」
「うん、なんだか話しかけても上の空だから、疲れてるのかと思っただけ…疲れてるなら、悪酔いするといけないから家まで送るよ」
気遣いの出来るいい男なのに、美姫は、彼氏の浜田より峯岸の事ばかり考えていたと反省して、彼の袖を引っ張った。