ネオン
私はもう既にこの空間の中にはいなかった。
それはつまり反転するライトとか、
揺れる地面とか、
暗がりに立ち込める如何わしい煙とか、
隣の男の安物の香水の匂いとかしつこい誘いとか、
すべてにうんざりとしていたということだ。
自分の惰性だけで繰り広げていた、つまんないダンスを急速に辞めた。
そして嫌悪感の募った右手で、
腰のあたりに添えられていた隣の男の手を思いっきり振り払ってやる。
その気になって踊っていた男は驚いたように私を見た。
だが暗がりの中ではそんな彼の表情は見えない
スタスタと歩き出せるわけもなく、前に進もうとすると人の海でもみくちゃにされる。
私はその海の中で必死で舵を取る。
なんとか体をスライドさせたり縮こませたりしながら、
踊る人々の腹や胸にぶつかりながら
波をかき分けてここまでやってくることが出来た。
私はどうやらこのクラブの隅の方の壁に行き着くことができたらしい。