塹壕の聖母
戦闘は終わった。

味方の増援が来て、赤軍はクモの子を散らしたようににげた。

俺の目の前に赤軍兵士の死体がうつ伏せで転がっていた。

死体の顔が見えた。俺がナイフで胸を刺した時の顔のままだった。

その先にあいつがいた。
 あいつは蹲り、看護兵の手当てを受けていた。

俺とあいつの間には、数人の赤軍兵士と数人の味方の死体が転がっていた。

 味方の死体には何人の味方の兵士が駆け寄り運びだそうとしていた。

 赤軍兵士の死体は誰も見向きもしなかった。もうたんなるこの街のガレキの一部でしか
なかった。

 看護兵が周りを見回し、俺と目線があった。

 おいこい。

 看護兵は俺に手招きした。

脇腹を手で当てているが見えた。そして周辺にはどす黒い色になっていた。

 衛生兵が駆けつけてきた。応急鞄から包帯などを取り出して、手当てを始めた。

 衛生兵があいつに質問をし、あいつが答えていた。小声だったので聞き取れなかった。






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