塹壕の聖母
3
俺は市街地の塹壕で赤軍兵士をにらみ合っていた。

互いに動くことがなく、時間だけが流れていった。

ボルガ川までもうじきだ。もう少しでここはドイツの物となる。

隊長が言っていたが、俺の周りには誰も素直に喜べる者はいなかった。

時々、散発に赤軍側から銃声が聞こえてきた。
 
俺はその敵からの銃声にあわせて撃ち返した。

その応酬が続いた。

数ヶ月前までは馬鹿丸出しに突撃してきて、機関銃の餌食になり何百人死体を作り出していた。

しかし、今は・・・




やむことない銃声・爆音・・・・

この地で無数に木霊する・・・・

俺はこの地で戦争をしている。


雪が降り始めた。

それは街を白く染め始める。

戦闘が続いていた。戦闘はは有利に進んでいるが赤軍は悪あがきが続いていた。

しかし戦闘は進んでは戻ることが多かった。

建物には鉤十字の旗が掲げてあった。次来た時は建物に掲げていた鉤十字は破り捨てられていた。

この街の風景が同じに見えた。

高層群のビルがすべて空爆で破壊されてた。

人間が同じに見える。スターリングラードの市民・赤軍兵士・味方の兵士・・・

そして戦場で死ぬ人間も同じだった。その死体はこの街のガレキの一部となる。

雪が降り始めた。

この街の同じに見える風景を白く染めてくれる。

この破壊されたビルを

人間を

この街を

死ぬ者を

俺自身も白く染めるだろう。

雪が降り始めた・・・




















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