王子様の溺愛【完】※番外編更新中
「おまたせ」


しばらくして、依人は部屋に現れた。


氷たっぷりのアイスティーがなみなみと入っているグラスを乗せた丸い盆を手にしていた。


「ありがとうございます」


コトリと縁の前に置くと、さり気なくシロップとミルクを添えてくれた。


「シロップ足りる?」

「大丈夫です」


依人の分にはシロップもミルクもついていなかった。


(無糖で飲めるなんて、先輩は大人だよね)


「早速勉強しようか」

「そうですね」


縁はにこっと微笑みながら頷いた。





しばらく、二人はそれぞれ自分の勉強に集中していた。


交わす言葉はないが、それでも居心地がいいのは、相手が依人だからだろうか。


ふと、ちらりと依人の顔を見ると、先程まではなかった眼鏡がいつの間にか掛けられていた。


ノーフレームの眼鏡は、いつも以上に知的かつ大人っぽく魅せる。


(本当に、反則! 何処まで格好良くなれば気が済むの?)


縁は熱くなった頬を冷ますように、冷たいアイスティーで喉を潤した。


「先輩、眼鏡を掛けるんですね」


躊躇いながら声を掛けると、依人の目線は英語の長文から縁に向けられた。


「ちょっと近視だから、授業中とかたまにね」

「そうなんですね」


(女の先輩は、今の先輩を見たことがあるんだ……)


縁の中で嫉妬が顔を出した。


悔やんでもどうにもならないことは重々理解しているが、二年早く生まれたらよかったのに……と考えてしまう。


たった二つの年の差が、大きく感じた。


「縁、どうしたの?」

「……いえ、なんでもありませんっ」


依人の声で我に返った縁は、一瞬目を丸くすると、にこっと笑いながらかぶりを振った。
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