王子様の溺愛【完】※番外編更新中
最寄り駅を出ると、三叉路に差し掛かる。菖蒲高校は真ん中、葵葉高校は左の道がそれぞれの通学路となる。
徒歩圏内に住む依人と縁は、一旦駅の近くまで向かい、葵葉高校に続く道を歩いていた。
葵葉高校の正門に差し掛かると、すでに一般客で賑わっていた。
重厚な校門は創立当時のものだが、そこから見える校舎は真新しく、近未来的なデザインになっている。
「歳が近そうな女の子が沢山いますね」
縁は依人の隣で辺りを見渡している。縁の言う通り同年代と思しき女子が大勢いた。
以前、見た合コンに臨む女子のようにファッションやヘアメイクに気合いが見られる。
「葵葉はエリート校で、顔面偏差値が高いことで有名だからね」
「学力じゃなくて?」
縁はきょとんとしたまま依人を見つめていた。
(縁と知り合うことがなかったら、縁は同じ学校か葵葉の男に見初められていたかもしれない)
五月の球技大会の日、足をくじいた縁を誰よりも早く見つけられたのは僥倖だ。
「カフェは三年一組でやってます」
「そこを目指せばいいんだね」
早速、従兄弟のクラスのカフェを目指そうとしたが、突然、縁は歩みを止めて鞄からスマートフォンを取り出した。
「すみません。母から連絡が来たので電話してもいいですか?」
「いいよ。あの守衛さんの近くで話しておいで」
「分かりましたっ」
もし、ナンパに絡まれても助けてくれると踏んでいた。
縁は依人の言葉の意図を理解していなかったが、素直に頷き、正門に立つ屈強な守衛の男性の近くへ向かった。
一般客は更に増え、盛況を極めている。
依人はその人だかりをぼんやりと眺めながら、縁が戻って来るのを待っていた。
「先輩……っ」
数分後、縁は依人の元へ駆け付けてきた。縁は息を弾ませながら依人の手を優しく握る。
「お待たせしましたっ。行きましょう」
「……」
縁は依人の手を引いて行こうとするが、依人は微動だにしない。
「先輩……?」
小首を傾げ、上目遣いで見つめる縁に依人は曖昧な笑みを携えた。その笑みに甘さは含まれていない。
そして、縁を見据えたまま口を開いた。
「すみません、どなたでしょうか」