王子様の溺愛【完】※番外編更新中
「え、何言っているんですか……? あたしは縁ですよ? ひどいです。そんな他人行儀いい方……」

縁は拗ねるように頬をぷくりと膨らませた。

「喉仏」
「……!」

縁……に扮した者は、目を見開き右手で喉元を押さえていた。

「あー、クソ、即バレかよ……」

その者は、先程より低くなった声で吐き捨て、勢いよく座り込んだ。いわゆるヤンキー座りだ。
相当足を開いているせいでスカートの下に穿いている短パンが見える。
よく見るとほっそりとした足は鍛えているのか、女子には見られない筋肉の付き方をしている。

「ちょっとは騙されろよ」
「別人だってすぐに分かりましたよ。もしかして、縁さんの従兄弟ですか?」



悪態つく縁と瓜二つの少年は、すくっと立ち上がり、依人と向き合った。

「……そうだよ。俺は白川(しらかわ)千紘(ちひろ)。あんたと同じ三年」

小生意気な物言いをしていた。だが、井坂のようなタチの悪さは見られず、依人はさして気にする素振りを見せなかった。

「縁さんとお付き合いさせてもらってます、桜宮依人です」

名乗り上げた瞬間、千紘は瞠目し、驚きを露わにしていた。

「は、え……?」
「家のことはしばらく黙ってくれませんか? 時期が来れば俺から打ち明けます」

縁は少し世情に疎い面があり、依人の実家の家柄に気付いていなかった。遅かれ早かれ知ることになると思うが、それが原因で離れて行くことを恐れ、ひた隠していた。

「俺もだけど、縁ちゃんはごく普通の一般家庭の人間だよ? おじさん……縁ちゃんのお父さんが健在だったら家格が釣り合っていたのに」

縁の家に複雑な事情があるようだ。

「綺麗事かもしれないけど、縁がどんな人間だろうが傍にいて欲しいし、いたいと思っています。それに、俺の家のことなんて気にせずに自分のやりたいことをやって欲しい」

将来のビジネスパートナーとして傍にいて欲しい訳ではないのだ。

幸い、両親は恋愛に寛容だ。彼女に会わせろと顔を合わせる度に言うほどに。

こんな考えは世迷いごとだろうか。脳内がお花畑だと嘲笑うだろうか。

依人はなんとも言えぬ気持ちで、縁と瓜二つの顔を見つめていた。
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