王子様の溺愛【完】※番外編更新中
縁と付き合うようになってからはほぼなくなったが、以前はこうやって女子から声を掛けられることがあった。


しかし、後にも先にもそのような誘いに乗る気は、依人の中には全くない。


縁を裏切る真似は死んでもしたくないし、縁がいなくても自身の表面だけを見て騒ぐ女子と関わりを持つ気はない。


「悪いけど、彼女とデート中なんだ」


「邪魔するな」と言う本音を隠して角が立たぬようにやんわりと断ると、彼女達はあからさまに残念そうに眉を下げていた。


しかし、彼女達はただでは転ばなかった。


「そうなんですかぁ。それなら暇な時があったら相手してくださいっ」
「あたし達、先輩の為ならいつでも予定空けときますから!」


二人分のラインと電話番号が書かれたメモを握らされると、 彼女達は満面の笑みで依人に手を振って書店から去って行った。


(相手? する訳ないだろ)


依人は洩れそうな溜息を押し殺し、貰ったメモをぐしゃりと握ると乱暴にズボンのポケットに突っ込んだ。


「先輩、」


後で捨ててやろう、と考えていると、ふと、後ろから半袖のシャツの上に重ねていた紺色のベストの裾をちょこんと引っ張られた。


振り向くと会計を終えた縁がいた。


「お待たせしました」


身長差で自ずと上目遣いになるのか、大きな目で見つめられると、悪くなりかけた機嫌がすぐに良くなる。


そんな現金な一面に内心突っ込みを入れながら、依人は愛想笑いではない心からの笑みを縁に向けた。


次に向かったのは、この店内に併設されているカフェだった。


依人はアイスコーヒー、縁はカフェラテ風味のフラッペ状のドリンクを注文した。


店内は老若男女の客で賑わっているが、BGMで流れているジャズの音楽の効果で落ち着いた雰囲気を見せていた。
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