王子様の溺愛【完】※番外編更新中
「んー、美味しいっ」


縁はぎゅっと目を細めて幸せそうに、フラッペを堪能している。


(睫毛長いなぁ)


依人は瞼を閉じているのをいいことに、アイスコーヒーを飲みながら縁を見つめていた。


「先輩、飲んでみます……?」


縁は依人の視線に気付くと、小首を傾げたままフラッペを差し出した。
どうやらフラッペを飲みたそうに見えたようだ。


(間接キスになること、気付いていないのかな)


内心思ったが、敢えて何もそのことに触れようとはせず、「ありがとう」と素直にフラッペを受け取って一口飲んでみた。


「甘……」


ブラックで飲んでいたせいで甘さを強く感じる。


しかし、生クリームが乗っているにも関わらずコーヒーの風味のお陰で特有のくどさを感じることなく、美味しいと思える甘さだった。


「美味しいね」

「でしょう? いつもここに来ると頼むんですっ」


依人の「美味しい」に縁は嬉しそうににこにこと笑顔を浮べる。


(本当、癒される)


縁の笑顔を見て和んでいると、依人の頭の中で一つ考えが浮かんだ。


「今度は俺のも飲んでみる?」


依人はそう言って縁の前に自分の飲み物を差出す。


「でも、ブラックは飲んだことがなくて」

「これはスッキリしているから大丈夫だよ」

「……な、何事も挑戦ですねっ」


縁は少し躊躇いを見せたが、意気込むと思い切り一口を飲んだ。


「う、苦い、です……」


縁は限界と言わんばかりに眉を寄せて、瞼をきつく閉じては苦さに悶えていた。


(ああ、可愛い……)


縁は引っ込み思案で大人しい性格だが、少しずつ色んな表情を見せてくれるようになった気がする。


そんな縁の些細な表情の変化を見つけるのが、依人の密かなブームだ。
飽きる日は一生来ないだろう。


「口直し」


零れそうな笑いを噛み殺しながらフラッペを縁に手渡すと、縁はそれを一気に飲み込んだ。


「うぅ、先輩よく飲めますね」

「いつの間にか飲めるようになっただけだよ」

「味覚が大人ですよ……あ」


突然、縁はフリーズしたパソコンの画面のように固まりだした。
白い肌が手を繋いだ時のように赤く染まっていく。


(今気付いたんだ……)


「くっ、ふふ」


依人はついに堪えきれなくなり、声を抑えながら笑った。
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