王子様の溺愛【完】※番外編更新中
「先輩っ、か、間接……気付いていたんですか……?」

「うん」


依人が頷くと、縁の身体は小動物のようにぷるぷると小さく震えだす。
相変わらず頬は赤いままだ。


「恥ずかしいです……」


縁は手のひらで頬を覆い隠すと、顔を俯かせた。


(だめだ。これはニヤける)


予想通りの愛らしくも初々しい反応を見せてくれた縁に、頬が緩みそうになるが、どうにか穏やかな笑みを維持させる。


「縁は恥ずかしがり屋さんだね。昼休みの時、これよりもすごいことしたのに」

「……っ!」


少し身を乗り出して、数時間前の昼休みに間接ではないキスをしたことをそっと耳打ちすると、縁は金魚のように口をぱくぱくとさせたまま固まってしまった。


「縁、おーい、ゆかり」


依人は名前を呼びながら手のひらを縁の目の前でひらひらと動かすが、依然として固まったままだ。


指先でお餅のように柔らかそうな頬を指で軽く何度か突っつくと、ようやく我に返った。


縁は頬をぷくっと膨らませて拗ねたような表情をさせた。


「先輩は、ずるいですっ」

「ずるい?」


依人が鸚鵡(おうむ)返しをすると、縁は爆弾投下に値する発言をした。


「先輩は、あたしより大人だからいつも余裕だもん……ドキドキし過ぎて、心臓が壊れそうになりますっ」


思わず目を見張った。


(何その可愛い発言……俺を殺す気か?)


しかし、縁の反撃はまだ終わらない。


真っ赤な頬をさせて潤んだ瞳を伏せた縁は、大人の色香を醸し出す女の顔に変わっていた。


数時間前の昼休みに魅せられた、何度も唇を塞いだ後の表情と同じ。


依人は、表向き貴公子を連想させる悠然たる笑みを携えていたが、心の中では滾る衝動を抑え込むことに骨を折っていた。


(余裕があるなんて、誤解だ)


洩れそうな溜息を抑えると、手を伸ばして縁の柔らかい髪を梳いていく。
一度も染めたことのないと言う黒髪からは、シャンプーの匂いが優しく香った。


「縁だって、いつも俺の心臓を壊すよ」
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