王子様の溺愛【完】※番外編更新中
運良く午後一の古典の授業は、自習だった。


屋上に向かって……と行きたいところだが、屋上の扉は常に閉鎖されているのでベランダに場所を移した。


「今朝から様子が変だとは思ってたの。縁から言い出すまで様子を見ていたけど……」

「ごめんね……本当は打ち明けたかった……でも、軽蔑されるのが怖かったの」


膝を抱えて顔を埋めたまま呟くと、鈴子に後頭部を軽く叩かれた。


「ばか。軽蔑しないわよ。縁が間違っていることをしたら指摘はする。でも、あたしは縁が何をしても友達で居続けるわ」

「鈴子……」


縁は顔を上げると、鈴子に抱き着いた。


「もう泣かないの」

「うぅっ、」


鈴子は小さな嗚咽を零す縁を宥めるように、背中を優しくさすってくれた。


しばらくして落ち着きを取り戻すと、縁は意を決して鈴子に打ち明けることにした。


ただ、声にするとクラスメイトに聞かれる恐れがあるので、スマートフォンを取り出し、メモ帳アプリで文章をしたためて。


「井坂か……」


鈴子にその文章を見せると、鈴子は盛大に嘆息した。


「鈴子は知ってるの?」

「うん。元弓道部仲間よ」


正直、意外だと思った。
ちゃらちゃらと軽そうな井坂が、硬派なイメージの弓道を嗜んでいたことに、縁は驚きを隠せなかった。


「井坂は大会に出れるくらい才能があったのだけど、女癖悪いでしょう? 見てくれもいいからたいていの女の子は井坂に靡いちゃうの。副主将の彼女を横取りしたこともあってね、本当に修羅場だったわ」


部員の鈴子は、その修羅場を見かけたことがあり、当時を思い出していたのかゲンナリとしていた。


「やることなすこと姑息よ……縁を泣かせるなんて」


鈴子は怒りを露わにして、拳を力強く握り締めた。


「でも、あたしの自業自得だよ。手紙なんて無視すればよかった……そうしたら、先輩を裏切らなくて済んだ」


力なく自嘲気味に笑うと、鈴子は眉を下げて悲しげな表情をさせた。


「縁、あたし思ったんだけど、」

「……?」


鈴子は一瞬躊躇いを見せたが、覚悟を決めたかのように真っ直ぐ縁の目を見つめると、口を開いた。


「縁には酷だと思うけど、今朝の出来事を先輩に打ち明けるべきだと思うの」


縁の肩がビクッと揺れた。


(先輩に打ち明ける……)


頭の中で反芻すると、心臓が握り潰されたように締め付けられた。
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