王子様の溺愛【完】※番外編更新中
「怖いよ……」


嫌われたら、拒絶されたら……と考えれば考えるほど雁字搦めにになって、動けなくなってしまう。


そんな縁に鈴子は優しく頭を撫でながら諭した。


「だけど考えてみて? もし、井坂や最悪第三者から知らされるくらいなら、縁から話を聞いて知った方がいいと思うの。あたしの憶測だけど、先輩だって急に縁にキスを拒まれて不安になっていると思うから」

「そうだよね……逃げてばっかりはだめだよね。キスを拒んだ理由も話さなきゃ、ね」


(玉砕覚悟でぶつかるしかないんだ)


打ち明けることでどうなるか全く分からなくて、不安しかない。
それでもありのままを伝えるしかないのだ。


これ以上依人に嘘をついて隠し通しても、罪悪感で押し潰されるだけだ。


「あたし、先輩にちゃんと話すよ」


勇気を出して、一歩を踏み出さなければいけない。


縁はそう強く思った。


「縁なら出来る。あたしも縁にちょっかい出すなって井坂にきつく言っておくから」

「鈴子、ありがと……もし、失恋したら骨を拾ってね」

「やだ、縁起でもないこと言わないの。あたしはそんな展開が来ないことを祈っているわよ」


鈴子には頭が上がらない。


もし、鈴子がいなければきっといつまでも隠し続けてウジウジしているだけだから。


何回感謝しても足りない。


「頑張りなさい」

「うんっ」


縁は泣き腫らした目を細めて微笑んだ。


それは無理矢理作ったものではない心からの笑顔だった。






放課後になり、縁は依人が来るのを待っていた。


待っている間、緊張で顔が強ばってしまったが、鈴子は何度も大丈夫だと声をかけてくれた。


「縁」


しばらくして依人の声が縁と鈴子の耳に届いた。


「先輩」


縁は恐る恐る依人に視線を向けると、依人はいつも通り柔和な笑みを浮かべていた。


「帰ろうか」


依人は縁の手を取ると指を絡ませていく。


(あたしが話をしたらもう繋いでくれなくなるのかな)


その甘い仕草にいつも胸をときめかせていたが、今日は無性に寂しくて仕方なかった。


「あの、」

「ん?」

「帰る前に、先輩にお話があります……」


緊張のあまり上手く声が出なかったが、どうにか絞り出す。


依人の顔は一瞬強張りだしたが、すぐに穏やかな表情に戻った。


「分かった。場所を変えよう。図書室でいい?」

「はい」


縁が頷くと、依人はそのまま縁の手を引いた。


繋がれた手はいつもより力が入っていた。


教室を出る寸前、振り向くと、鈴子が口パクで「頑張れ」と手を振った。
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