王子様の溺愛【完】※番外編更新中
この高校の図書室は入口から向かって右半分が蔵書が収められている書架が並んでおり、左半分が長い机が配置されている。


図書室に足を踏み入れて辺りを見渡すと、人はカウンターに座る図書委員の女子生徒が一人と、数人の生徒しかいなかった。


二人は一番奥へ向かい、窓際の椅子に横に並んで腰を下ろした。


「縁の話って何?」


机に肘を付いて手のひらに顎を乗せて尋ねる依人に、縁は一瞬たじろいだ。


しかし、逃げられないと思い、深呼吸を一度すると、真っ直ぐ依人の目を見つめた。


(ここまで来たら、言わなきゃ……!)


「あの、あたし、今朝――――」


意を決して縁は切り出そうとしたが、思わぬ邪魔者が入った。


「あれ、縁ちゃんじゃんー」


間延びした緩い話し方。


姿を見なくても声を聞いただけで縁は硬直してしまった。


縁に声を掛けたのは他でもない井坂だったのだから。


(怖い……!)


縁は無意識に依人に寄り添い、長袖のシャツの袖を握り締めた。


「彼氏さんも一緒なんだ。桜宮先輩、こんちはー。オレ、井坂って言います」


井坂は友好的に挨拶をすると、依人はきょとんとした顔になった。


「縁のクラスメイト?」

「あ、あの……」


説明しなきゃ、と思っても頭が回らず言葉が出てこない。


そんな縁の代わって井坂はこう切り出した。


「クラスは違います……でも、他の男子よりは親密ですね」


井坂は口角を挙げて、あからさまに企みを含む笑みを浮かべた。


(何言ってるの!?)


縁は目を見張ったまま井坂を見つめた。


「それは、どういう意味かな?」


依人の声が低くなった。


初めて聞く冷淡な声音に、指先から体温が奪われていくような錯覚がした。


(何も言わないで……)


縁は震えながら切実に祈ったが、恐れていたことが現実に起きてしまった。


「キスするくらいは仲良いですよ。縁ちゃんの唇、柔らかいですよね」


縁が打ち明けるよりも先に、状況は最悪な展開になってしまった。


(もう、終わりだ――――)


井坂の発言を聞いた瞬間、縁は目の前が真っ暗になる。


それと同時に初恋の終焉を悟った。
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