王子様の溺愛【完】※番外編更新中
依人はこの話を聞いてどんな表情をしているのか。
縁は怖くて依人を見ることがとても出来なかった。
(鈴子、だめだった……振られるのも時間の問題だよ……)
ぎゅっときつく瞼を閉じても涙は溢れ出し、頬を伝っていく。
いくら悔やんでも時間は取り戻せない。
それでも縁は涙を止めることが出来なかった。
シャツの袖を掴んでいた手をそっと離す。
しかし、離した手はまた掴まれて思い切り引き寄せられた。
(今のは先輩が……?)
縁は何が起きたのか理解出来ず、涙で濡れた瞳のまま顔を見上げると、すぐ近くに依人の顔があった。
一瞬、視線がぶつかると、依人は逃がさないと言わんばかりに肩を力強く抱き締められた。
(なんで、あたしを抱き締めるの!?)
縁の頭は混乱に陥っており、最早パンク寸前だ。
パソコンがフリーズしたみたいに固まっていると、思いも寄らぬ言葉が頭上から聞こえた。
「俺はお前の手のひらの上で転がされるほど、馬鹿じゃないよ」
依人の口から出たのは、縁へ向けた軽蔑の言葉ではなく、井坂を挑発させるものだった。
「はっ、キスしたのは事実ですよ?」
井坂は嘲笑を浮かべ、依人を小馬鹿にするように言った。
依人は井坂を一瞥すると、取り乱すことなく言い聞かせるように返した。
「それで俺が縁を手放すと思ったら大間違いだよ」
(どうして……? あたしは先輩を裏切ったのに……)
縁の瞳から途切れることなく涙が零れ落ちていく。
依人は縁を離すと、立ち上がり、井坂の胸倉を掴んだ。
「ぐっ」
「だ、だめです……!」
縁は制止しようとするが、依人の手は緩むことはなかった。
井坂は息苦しそうに眉を寄せている。
今にも殴り掛かりそうな緊迫した空気は、まさに一触即発と言う言葉が適切だろう。
しかし、依人の空いた手は一ミリも上がることはなかった。
「――次はないよ。また縁を泣かせたら俺も報復させて貰う」
依人は据わった目をさせて、地を這うような低い声で淡々と井坂に囁いた。
乱暴に突き放すと、井坂は俯いたまま軽くむせていた。
「縁、行こう」
「っ、」
依人は井坂が見えていないかのように手を繋ぐと、そのまま引き連れた。
どうして拒絶しないんですか?
どうして今まで通り手を繋いでくれるんですか?
あたしは、まだ先輩の彼女でいてもいいんですか?
縁は色々聞きたくて仕方なかったが、唇から洩れたのは小さな嗚咽だけだった。
縁は怖くて依人を見ることがとても出来なかった。
(鈴子、だめだった……振られるのも時間の問題だよ……)
ぎゅっときつく瞼を閉じても涙は溢れ出し、頬を伝っていく。
いくら悔やんでも時間は取り戻せない。
それでも縁は涙を止めることが出来なかった。
シャツの袖を掴んでいた手をそっと離す。
しかし、離した手はまた掴まれて思い切り引き寄せられた。
(今のは先輩が……?)
縁は何が起きたのか理解出来ず、涙で濡れた瞳のまま顔を見上げると、すぐ近くに依人の顔があった。
一瞬、視線がぶつかると、依人は逃がさないと言わんばかりに肩を力強く抱き締められた。
(なんで、あたしを抱き締めるの!?)
縁の頭は混乱に陥っており、最早パンク寸前だ。
パソコンがフリーズしたみたいに固まっていると、思いも寄らぬ言葉が頭上から聞こえた。
「俺はお前の手のひらの上で転がされるほど、馬鹿じゃないよ」
依人の口から出たのは、縁へ向けた軽蔑の言葉ではなく、井坂を挑発させるものだった。
「はっ、キスしたのは事実ですよ?」
井坂は嘲笑を浮かべ、依人を小馬鹿にするように言った。
依人は井坂を一瞥すると、取り乱すことなく言い聞かせるように返した。
「それで俺が縁を手放すと思ったら大間違いだよ」
(どうして……? あたしは先輩を裏切ったのに……)
縁の瞳から途切れることなく涙が零れ落ちていく。
依人は縁を離すと、立ち上がり、井坂の胸倉を掴んだ。
「ぐっ」
「だ、だめです……!」
縁は制止しようとするが、依人の手は緩むことはなかった。
井坂は息苦しそうに眉を寄せている。
今にも殴り掛かりそうな緊迫した空気は、まさに一触即発と言う言葉が適切だろう。
しかし、依人の空いた手は一ミリも上がることはなかった。
「――次はないよ。また縁を泣かせたら俺も報復させて貰う」
依人は据わった目をさせて、地を這うような低い声で淡々と井坂に囁いた。
乱暴に突き放すと、井坂は俯いたまま軽くむせていた。
「縁、行こう」
「っ、」
依人は井坂が見えていないかのように手を繋ぐと、そのまま引き連れた。
どうして拒絶しないんですか?
どうして今まで通り手を繋いでくれるんですか?
あたしは、まだ先輩の彼女でいてもいいんですか?
縁は色々聞きたくて仕方なかったが、唇から洩れたのは小さな嗚咽だけだった。