王子様の溺愛【完】※番外編更新中
そのまま連れられて辿り着いたのは、依人の住まうマンションだった。


「上がって?」


玄関でおどおどしながら立ち尽くす縁を見かねて、依人は上がるように促した。


「お邪魔、します……」


縁は靴を揃えて遠慮がちに上がると、再び依人に手を引かれる形で自室へ向かった。


一学期の試験勉強以来に見る依人の自室は、相変わらず物が少なくてシンプルだ。


「せんぱい……」


縁は窺うように依人の顔を見つめると、突然、抱き上げられた。


「きゃっ」


急に来た浮遊感に思わず小さな悲鳴を上げてしまい、依人の肩にしがみつく。


「降ろしてくださいっ」


二度目でも慣れないお姫様抱っこに、恥ずかしくなり訴えかけるが、依人は耳を貸さない。


ベッドの淵に座った時、ようやく降ろしてくれたかと思えば、膝の上に向かい合うように乗せられた。


「もっと、寄って」

「っ」


肩を抱かれて二人の距離がゼロになった。


(もう抱き締められる資格なんてないのに)


身を捩って離れようとしても、依人の腕の力は比例するように強くなっていく。


「縁……俺に話そうとしたこと教えてくれる? ちゃんと縁の言葉で聞きたい」


耳元で囁かれて縁はピタリと抵抗を辞めた。


そして、依人の腕の中に収まったまま今朝の出来事を打ち明けることにした。






井坂に呼び出されるまでの経緯と、告白をされたこと、そして……。


「――先輩と別れてオレを選べって言われて、あたしは拒否したんですが……いきなり抱き締められて、無理矢理……キスされてしまいました……」


全てを打ち明けると、縁の涙腺はまた崩壊した。


「ごめんなさい……っ、あたし、本当に最低ですっ……」


それきり縁の口からは嗚咽しか出てこなくなった。


「ひっ、く、ふぇ……っ」


子どものように泣きじゃくる縁。


「辛いのに話してくれてありがとう。もう自分を責めたりしないで?」


依人は一度も縁を非難することなく、抱き締めては宥めるように優しく背中をぽん、ぽんと叩いた。


「俺こそごめんね? 今日一日不安だったのに気付いてやれなくて」


(先輩は悪くないよ。全部あたしが悪いの)


そんな心の声を伝えたかったが、嗚咽しか出てこなくて代わりにかぶりを振った。


「俺は何があっても縁の傍にいる。初めて会った時から変わらず好きだよ? それだけは分かって」


依人は指で縁の涙を拭うと、腫れぼったくなった瞼の上に優しく口付けを落とした。


(あたしは果報者だね……)


依人の温かくも真っ直ぐな愛情は、縁の心をそっと癒してくれた。
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