王子様の溺愛【完】※番外編更新中
冬休みに突入し、いよいよクリスマスイブの日がやって来た。


縁は楽しみの余り、休みにも関わらず朝六時過ぎに目が覚めてしまった。


朝からずっと楽しみのあまりそわそわしてしまい、そんな縁に見兼ねた母は笑いながらケーキを作ろうと提案した。


ケーキを作ったり、母に依人と付き合った経緯を根掘り葉掘り聞かれたりした。
依人について聞かれた時は火を噴くほど恥ずかしかったが、お陰で母といる間はそわそわすることなく過ごすことが出来た。


そうこうしているうちに午後三時に差し掛かり、縁は自室に入ると、ラフな部屋着から白いニットのワンピースとタイツに着替えた。


着替え終えると、メイクの準備を始める。


祭りの日以来、自分で出来るように密かに練習をした。


マスカラを持つ手は震えていたが、時間をかけて丁寧に施していった。


メイクを終えた後は、姿見を覗き込んで変なところはないか、着替えが入った大きめの鞄を開けて忘れ物はないかと確認したりした。


そして、後数分で五時に差し掛かる頃、ようやく待ちわびたインターホンの鳴る音が耳に入った。


(宅配便ってオチじゃありませんように!)


逸る気持ちを抑えながら、キャメル色の短めのダッフルコートを羽織る。
フードのフチにファーが付いており、縁のお気に入りだ。


トグルボタンを留めると、縁は鞄を引っ掴んで階段を駆け降りて玄関へ向かった。


深呼吸をしてからドアを開けると、目の前にいたのは宅配便のおじさんではなく、依人だった。


「こんばんはっ」


依人の顔を目にした途端、自然と縁から笑顔が零れ落ちた。


「こんばんは」


(わぁ、久し振りの先輩だ……)


久し振りに見る依人に、胸がぎゅっと締め付けられた。


「縁、彼氏さんいらしたの?」


しばらく見つめ合っていると、母が現れ、縁の肩に手を置いた。


すると、依人は姿勢を正して母の顔を見つめた。


「初めまして。縁さんとお付き合いさせて頂いています、桜宮依人と言います」


依人はそう言うと深く一礼した。


(なんか、緊張する……もし先輩のご両親に挨拶する機会があったらもっと緊張しちゃうんだろうな)


「初めまして。縁の母です」


母はにこやかに返した。


「縁さんから聞きました。宿泊券ありがとうございます」

「せっかくのイブだもの。二人にとっていい思い出になれたら私も嬉しい」


母の言葉に依人の緊張した面持ちは少し綻んだものに変わった。


「今日明日は縁をお願いします」

「はい、任せてください」


母は依人に対して肯定的に捉えているようだ。


縁は二人のやり取りを聞きながら、安堵の息をそっとついた。
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