王子様の溺愛【完】※番外編更新中
母に見送られながら家を出ると、肩を並べて駅まで歩いて行く。


その途中で依人は突然しゃがみ込んだ。


「先輩っ、どうしたんですか? 気分悪くなりました?」


(体調崩しちゃったのかな……)


縁の中で不安と、無理してわがままに付き合わせた罪悪感が芽生えてきた。


おろおろと狼狽えていると、依人は俯いた顔を上げて、安心させるように微笑んだ。


「驚かせてごめん……大丈夫。ただ緊張していただけだよ」

「緊張していたんですか?」

「彼女の親に会うとなると、そりゃあ緊張するよ。正直悪い印象を持たれたら……って内心ビビっていたよ」


苦笑を浮かべる依人は、立ち上がるときょとんとした縁の頬に手を添えた。


「あたしも緊張しました。先輩は自慢出来るくらい素敵な人ですから、お母さんは分かってくれるって信じていましたけど、それでもドキドキしていました」

「縁は俺のこと買い被り過ぎだよ。でも、お母さんに信頼してもらえるように頑張るよ――これからも一緒にいたいから」


依人の手が頬から離れていくと縁の小さな手を労わるように握った。


(先輩……)


「あたしも同じ気持ちです」


縁は涙ぐみそうになったが、ぐっと堪えて笑顔を浮かべた。






電車を乗り継いで、隣県の海沿いにある大きな公園に到着した。


イルミネーションは公園の敷地内で見れるようになっている。


公園内はカップル連れや家族連れで賑わっていた。


「先輩、見てくださいっ。綺麗ですよ」


辺り一面青と白を中心とした色とりどりの光の海が広がっており、幻想的な光景はおとぎの国にいるような錯覚がした。


「これは凄いね」

「こんな綺麗なイルミネーション、初めてですっ」

「そこまで喜んで貰えると連れてきた甲斐があるよ」


依人は小さく笑いを零すと、童心に返ってはしゃぐ縁の頭を優しく撫でた。


手を繋いでゆっくり光の海の中を歩いていく。


すると、五メートルほどの高さのキラキラと輝くクリスマスツリーが二人を迎えた。


(凄い……)


あまりに綺麗過ぎて、息を呑むほどだ。


その場から動けなくなり、見とれていると額に柔らかいものが触れた。


「先輩っ!」


祭りの時のように依人に不意打ちでキスされた。


「ふふ、縁が可愛いからつい」

「いきなりですからっ」


真っ赤になって頬を膨らませる縁だが、依人は悪びれることなく笑みを浮かべた。
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