王子様の溺愛【完】※番外編更新中
「お待たせしましたっ」

「ありがとう」


縁は依人にマグカップを渡すと、ベッドの傍で正座をした。


「ふふ、足崩してもいいよ」

「あ、はい」


依人はマグカップを両手で持ったまま、小さな笑いを零したので、縁は言われるがままに足を崩してお姉さん座りをした。





「あの、改めて言いますけど、合格おめでとうございます!」

「ありがとう。縁の電話のお陰かな」

「いえっ、先輩がこれまで頑張ってきた成果ですよ」


縁は照れ笑いをしながら、小さくかぶりを振った。


「でも、縁の声を聞いてから不思議と落ち着けたのは本当なんだよ」

「そ、そうなんですか……?」


(先輩、緊張していたの?)


首を傾げる縁に、依人は優しく微笑みかけていた。
マスクで隠れていても、依人の表情の変化が分かる。


「実感したよ。俺には縁が必要なんだって」

「えっ」


前触れなく放たれた甘い発言に、縁は驚き目を見張った。
白い頬が瞬く間に赤く染まり、マスクが無ければ縁の方が熱があるのではと見えるだろう。


(マスクしてて良かった……ほっぺたが赤いのバレずに済むから)


手のひらで頬を覆い隠し、大きな瞳を伏せた。


「……春なんて、来なければいいのに」

「な、何言っているんですか? 会ってない間に何かあったんですか?」


突然、依人の口からネガティブな言葉が出るとは思わず、縁は動揺を露わにしてしまった。


そんな縁を安心させるように、依人はごめん、と呟いた。


「何もないよ? ただ、俺が大学生になったら、俺がいない隙に縁を狙う奴が増えちゃうなぁって思ったんだ」

「そんな、あたしを狙う物好きなんていませんよ」


十六年間生きてきて、告白を受けたのは依人と井坂の二人だけ。
縁は“モテる”とは無縁だと思っている。


「本当に無自覚だね」


依人はベッドのふちまで身を寄せると、縁の肩に腕を回した。


「先輩っ……」


近くなった距離に、縁は慌てふためく。


「縁はとても可愛い女の子なんだよ? だから少しは警戒心を持って欲しい」


依人の額が縁の額と触れ合った。


キスが出来そうな至近距離は、縁の鼓動を暴れさせた。


「その顔、反則だって……キスしたいけど、我慢しなきゃね?」

「……っ」


縁に囁いた声は、風邪のせいで少し掠れていたが、色気があって縁はクラクラと目眩がした。


「先輩こそ、自分の格好よさを自覚してくださいっ。大学に行ったら、綺麗なお姉さんがたくさんいるから、今以上にモテるのが想像出来ます!」


縁は必死に抗議するが、依人はそんな縁を微笑ましげに見つめながら髪を撫でた。


「ヤキモチ?」

「……っ」
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