王子様の溺愛【完】※番外編更新中
「うっ、ひっく……怖いよ……っ」


ここ数日、縁は不安しかなかった。


スマートフォンで遠距離恋愛について検索をしたら、破局したケースばかりがごろごろと出てきた。


どう足掻いても、距離が離れてしまうと寄り添っていた心も離れてしまうのか。
依人の中から自分がいなくなってしまう日が来てしまうのか。


(先輩がほかの人を好きになるなんて、想像するだけで胸が痛い)


胸が張り裂けそうになり、夜は中々眠れなかった。


縁は鈴子に抱き着いて、ただただ静かに嗚咽を零し続けた。







キッチンに甘い匂いが漂いだした頃、縁の涙腺は落ち着きを取り戻した。


「落ち着いた?」


鈴子は優しく微笑みながら、ハンカチで目尻に溜まった涙を拭い取る。


「うん……ありがとう」


縁は泣き腫らした目を恥ずかしげに伏せてお礼を言った。


「こんなに腫らして……今まで独りで泣いていたんでしょ」

「うん……最初お母さんを無視しちゃったから、これ以上泣いて困らせちゃいけないって無理して笑ってたの」

「あたしがいる時は無理しなくていいわよ。受け止めてあげるから」

「ふふっ、鈴子ったら男前」

「嬉しくない褒め言葉」


鈴子は口ではそう返していたが、笑みが零れていた。


(鈴子、あたしの友達でいてくれてありがとう。本当に感謝してもし足りないよ)


「ありがとう、鈴子」


縁は鈴子に心から強く感謝した。






オーブンから焼き上がりを知らせるアラームが鳴り出す。


ミトンをはめて、オーブンを開けると、甘いチョコレートの香りが鼻をくすぐった。


「どう?」


オーブンの中を覗き込む鈴子に、縁は親指をぐっと立てた。


竹串で生焼けがないかを確認した後、二人は試食と称したティータイムを始めた。


「美味しい」

「これなら渡せるわね」


口に入れると、程よい甘さと苦さと、中に入っているくるみの香ばしさが広がった。


出来栄えは自画自賛してしまうほど成功した。


試食を終えると、粗熱が取れたブラウニーをラッピングをし、チョコレート作りは終了した。


「頑張ってね」

「鈴子もねっ」


二人はお互い健闘を祈りながら、バイバイと別れた。
< 58 / 103 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop