王子様の溺愛【完】※番外編更新中
映画館は目的の駅直通のファッションビルにあり、エレベーターに乗って映画館のフロアへ向かった。


この日バレンタインデーと言うこともあり、上映するものは、少女漫画の実写化が占められている。しかし、目当ての映画は有名な推理小説を原作としたシリーズものだった。


縁は映画はあまり見ないのだが、依人が「縁が好きそうな映画が上映されるよ」と教えてくれたのだ。


原作にあったおぞましい殺人現場がどう描かれるのか、気になっていたりする。


(これが恋愛小説の世界なら、デートでロマンチックな恋愛映画を選ぶべきだけど、一緒に楽しめれば結果オーライだよね)


花の女子高生が血みどろの殺人事件を描いた小説を好んで読むのは、ドン引きされても仕方ない気がするが、依人は縁の本の好みも受け入れてくれた。
本当に勿体ないくらいの出来た彼氏だな……と縁はしみじみ思った。


上映まで時間があったので飲み物を買いに列に並んだのだが、周囲にいる数多の女子の熱い視線が依人に注がれていることに気付くと、縁は居心地悪そうに顔を俯かせた。


「ねえねえ、あの人見て」
「わぁ、かっこいい……!」
「大人っぽくて素敵」


(どこに行っても、先輩は沢山の女の子を惹き付ける。大学生になったら高校の頃以上にモテちゃうよ)


色めき立つ周囲に、縁は誰にも気付かれないようにため息をついた。







お目当ての映画は原作を知っていても楽しめた。
配役は小説からぬけだして来たかのようにぴったりで、映画という形で視覚化することで新鮮な気持ちで観ることが出来た。


「面白かったですね」

「まさか、犯人が主人公とは思わなかったよ。俺、従兄弟が犯人かと思ったよ」

「やっぱり思いますよね。あたしも初めて読んだ時思いました」

「主人公が犯人って他にあるの?」

「割とありますよ。作品名を挙げるとネタバレになるので敢えて教えません」

「そっか、色々読んで探してみるよ」


二人はファッションビルを後にして、映画の感想を語り合いながら大通りを歩いていた。


「縁に楽しんで貰えてよかったよ。また、映画観に行こうね」


依人はそう言って甘く破顔させた。


縁は息苦しさを覚え、表情を隠すように俯くと悲しげに目を伏せた。


(その“また”はもう来ないんです……)


「……はい。行きましょうね」


縁はまだ依人に打ち明けることが出来ず、俯いた顔を上げると曖昧に微笑みながら頷いた。


「お昼ここにする?」

「そうですね」


途中、お昼時にも関わらず行列が短いカフェを見つけ、そこでお昼を摂ろうと最後尾に並ぶことにした。
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