王子様の溺愛【完】※番外編更新中

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ドクン、大袈裟なくらい鼓動が暴れている。


“縁ちゃんに、運命の人に出逢ったのね”


耳元で囁かれた弥生の言葉が頭の中で反芻して、離れてくれない。


よそ行きの人の良さそうな柔和な笑みは崩れ落ちて、頬に熱が集まるのを自覚した。


弥生と別れてからは新たに彼女を作ることはなかった。
運命の出逢いなど、端から期待していなかったが、高校三年に進級して間もない頃、依人は出逢ってしまった。


佐藤縁と言う少女に。


これまで多少なりとも恋愛を経験してきたが、一挙一動に感情を掻き乱され、執着してしまうのは縁が初めてだった。


仮に縁が他の男に心変わりしても、自分を嫌ったとしても手離したくないと依人は本気で思っていた。


自分の中に独占欲が強い一面があることを教えてくれたのは紛れもなく縁だ。


「くす……」


動揺を露わにした依人に、弥生は目を細めて上品に笑った。


「おかしい?」

「ううん、幸せそうで良かったなぁって思っていたの。私あの時無神経なこと言って傷付けたから。今更だけど、ごめんなさい」


申し訳なさそうに謝る弥生に、依人は一瞬だけ手のひらでぽんと弥生の頭を撫でた。


「もう俺は大丈夫だから。ちゃんと高梨さんと過ごした日々は思い出になってる。今は縁(あのこ)しか見えない」


かつては弥生のことが好きだった。
しかし、今の依人にとってそれはもう過去の話だ。


「うん、ありがとう……」


二人は顔を見合わせると、目を細めて笑った。






弥生が店を後にして数分後、母親に電話をかけに行った縁が戻って来た。


「お待たせしました。弥生さんは?」

「もう、帰ったよ。俺達もそろそろ出ようか」

「分かりました」


会計を済まして、店を後にすると、凍えるほどの風が二人に吹き付けた。


「縁の手、冷たいね」


依人はすぐさま縁の手を繋ぐと、先程まで外にいたせいか、ひんやりとしていた。


「ごめんなさい。ちっちゃいカイロあるので使いますか?」

「縁と手を繋いでいたいかな」


思っていたことをそのまま言葉にすると、縁は頬を染めて、恥ずかしさを堪えるように唇をきゅっと引き締めていた。


縁の純粋無垢な反応は、依人の心を容易に奪い去っていく。


通りすがりの年の近そうな男が、縁をちらりと見ては「あの子可愛い」と友人らしき男に囁いていた。


(その反応、俺以外に見せないで。他の男の心を奪わないで)


独占欲が顔を出し、縁を誰にも見られないように隠してしまいたい……と依人は切実に願った。
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