王子様の溺愛【完】※番外編更新中
(これは夢? まだあたしは寝ているのかな……夢オチだった嫌だな)


頭の中でそんなことを思っていたが、包まれた体温と匂いが、夢ではなく現実だと縁に教えた。


正真正銘、依人と再会を果たせたのだ。


「……先輩、どうして今日来ると教えてくれなかったんですか?」


抱き着いたまま見上げては、頬を膨らませて依人に抗議する。


「ごめんね? 驚かせたくて黙ってた。縁のお母さんに言うなって頼んだからね」


母が言っていた卒業祝いは、依人のことだったのか。
あの時、上機嫌な笑顔を見せていた理由が今分かった。


「本当にびっくりしましたよっ……」

「はは、それはよかった」


依人は笑いながら縁の髪を愛おしそうに撫でた。


その大きくて温かい手のひらに、縁の涙腺は緩んで雫がぽろぽろと頬を伝った。


「びっくりしたけど、また先輩に会えて、すっごく嬉しいです」

「俺も嬉しいよ。二年間何度も縁に会いに行きたいって思ったよ」


依人は玄関の中へ足を踏み入れてドアを閉じると、縁の顎を上げて唇を重ね合わせた。


久し振りの口付けに、縁の胸の中は歓喜に震える。


(先輩、好き……大好き)


依人への想いが堰を切って溢れ出す。


「はぁ……」


触れるだけの口付けは、縁を容易にとろとろに溶かしていった。


「その顔、俺以外に見せたらだめだよ?」

「はい……」


一体依人にどんな顔を見せていたのか見当がつかなかったが、依人以外の人とキスはしたくないし、見せるつもりはないので縁は素直に頷いた。







「縁のお母さんが出張から戻るまでは、ここにいるからね」


あれから、ダイニングで向かい合うように座って、作ったクリームシチューを一緒に食べていると、依人は縁にそう告げた。


「しばらく一緒にいられるんですか!?」


縁はシチューをすくおうとしたスプーンを持ったまま、目を丸くさせた。


「縁が一人だからよかったら泊まっていけって、縁のお母さんが言ってくれたんだよ」


(お母さん、そんなこと言ってたの!? びっくりだよっ。先輩と一緒にいられるのは嬉しいけど、ね)


「明日、札幌を観光しますか? 少しは案内出来ますよ」

「それもいいね……でも、」


依人は立ち上がると、身を乗り出して縁の耳元で囁いた。


「〜っ」


縁の真っ白な頬が瞬時に染まっていく。


“先に縁を可愛がりたい”


依人が大胆な発言をしたせいだ。


(か、か、可愛がりたい!?)


いきなりの甘い発言に、鼓動がバクバクと暴れ続けている。


縁は動揺を鎮めようと、湯のみに入っている冷めたほうじ茶を、ごくごくと一気に飲み干した。
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